ブラッディマリー
万里亜は立ち上がると、そのまま和に歩み寄った。その足音が、しない。
それを不思議に思う前に、万里亜の指先が和のTシャツの裾を摘んだ。
「……あたしが『殺して』って言ったの……聞こえてた、筈」
「面倒はごめんなんだよ」
眩い閃光で、視界が一瞬真っ白になる。
雷だと判ったのは、すぐに凄まじい音が響いてから。近くに落ちたらしい。
「ねえ、何であたしを助けたりしたの?」
「知らねえよ、そんなもん」
たった今落ちた雷が始まりの合図だったかのように、雨雲は電気を孕み出し、小さな閃光が部屋をちらちらと映す。
「生きてても仕方ないのに──こんなカラダで」
万里亜の長く湿った髪が肩からはらりと流れ落ちる。その額が、こつんと和の背に押し付けられた。
腹が、熱かった。
すきっ腹にビールを入れたからだと、判っている。
……相手は子どもだろ。
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