ブラッディマリー
 

 万里亜を連れて来たのは、彼女を一人に出来なかったから。



 ……それ以上に、自分が万里亜にいて欲しかったから。



 心配そうに眉尻を下げる万里亜が、黙って自分を見ている。


 それだけで気休めではなく、穏やかな気持ちでいられると、どう説明すればいいのだろう。



 和は万里亜に向かって静かに微笑むと、門を開いた。和が来たことを判っていたのか、使用人頭の西成が玄関ドアを中から開き、深々と頭を下げていた。



「和様、おかえりなさいませ……!」



 50歳をとっくに過ぎているであろう西成の頭髪には、白いものが混じっている。自分が家を出て行った頃は、もう少し若い印象のあった西成。和は時間の流れの無常さを目の当たりにする。



「……西成……」



 懐かしさだけではない感情が沸き上がって、和は止めた足を動かすことが出来ずに、立ち尽くした。


 ようやく頭を上げた西成は、和の後ろにぴたりとくっついている戸惑い顔の万里亜を見つける。

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