ブラッディマリー
 

 いきなり敬吾に会うことを避けたかった和の気持ちを察したのか、西成は眉尻を下げて困ったように微笑む。



「マスコミや取り巻きの方々には隠しておいでですが、近頃旦那様は、呼吸が苦しくなる発作が度々……」


「……そんなやわな男だったっけ?」



 どこか棘のある和の言葉を、同じようにベッドの隣に座る万里亜が彼の手を軽く叩いて諌めた。和は少しばつの悪そうな表情を浮かべると、肩をすくめる。



「……和様が出て行かれてから、旦那様はかなり気落ちされているようでした」


「……歳くった、ってことか」



 どうにも落ち着かず、和は煙草に火を点けた。


 それを見た西成は、目を丸くする。



「和様……!」



 西成は慌ててドアを開けると、廊下の他の使用人に灰皿を用意させた。



「お吸いになられるとは思いませんで、申し訳ありません。欠かさず用意させておきます」


「……悪い。家出てから覚えたんだっけ、俺」



 くつくつと笑った和に、西成もつられて笑う。

.
< 185 / 381 >

この作品をシェア

pagetop