ブラッディマリー

赤く染まる闇

 


 痩せ細ったその身体つきからは想像出来ない、健康な女のように尚美は逃げ惑い、やがて彼女の部屋のある4階へたどり着いた。


 和は軽く息を切らしながらそれを追うと、廊下を軽やかに走る背中に投げかける。



「……もう、誰もついて来てないぞ。言いたいことがあるなら、言えよ」



 すると尚美はぴたりと足を止めた。


 靡いて腿まで見せていたガウンは、素直に彼女の動きに従いまた身体を覆う。ゆっくりと振り返った彼女は、それでも前を隠すことはせず和を見た。



 改めて和は、何度も寝た筈の彼女の身体を思い出せないことに気付く。酷く痩せたことは判る。でも、それだけだ。いかに自分が総てに無関心だったかを思い知らされる。



 すると、そんな和の心理が手に取るように判るのか、尚美は嘲るように笑った。

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