ブラッディマリー
 


「運転手のことは、部下がうまくやってくれる」



 昔からそうして都合の悪いことを片付けて来たのであろう敬吾を、和はある種の嫌悪を含め、目を細めて見つめた。


 万里亜は不安な心持ちで、和の傍に立っている。


 手当てを受けた後、ベッドに横たわった敬吾はそんな和の視線を受け、皮肉な笑みを浮かべた。



「……そんな顔をするな。お前に好かれていないことは判っている。今更好かれようとも思わんがな」


「それは何よりだ」



 無愛想な和を見つめ、敬吾は疲れた目尻をふっと緩める。



「……似て来たな」


「何が」


「君子にだ」



 天井を仰いで瞼を閉じた敬吾は、どこか満足そうで和は苛立ちを覚えた。



「……今更何言ってんだよ」


「そう、だな」



 重々しく瞼を持ち上げ、敬吾はそのまま何か捜すように天井を見つめる。そして、微動だにせず口だけを開いた。



「この6年、寄り付きもしなかったお前が戻って来たということは……」



 ぴくり……と和の眉が動く。

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