ブラッディマリー

見知らぬ貌

 


 それは不思議な光景で。


 さっき、一輪差しがやたらゆっくり飛んでくるのが見えた。けれど、今度のこれはその比ではない。


 敬吾の構えた銃は真っすぐに万里亜に向けられ、和は『ああ、扱いに慣れているんだな』とぼんやり思った。


 その銃口から、銀色の弾丸が飛び出してくるのがはっきりと見て取れた。



 まるで映画のワンシーンで、そう珍しい光景でもなかったせいか、一瞬現実感が欠落していた。



 回転しながら飛んでくる銀の弾は空気を擦りながら、すれすれのところで和の耳元を掠める。


 その時耳元で聞こえた音で、和は我にかえった。



 これは映画のワンシーンなどではなく、今目の前で起きている現実なのだ、と。



 一瞬我を忘れたのは逃避の為だったのだろう、と言われればたぶん否定することができない。

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