ブラッディマリー
女ヴァンパイアは月のものさえ命の危機だと警鐘を鳴らす、ということは聞いて知っている。が、それを遙かに凌ぐであろう自分の出血量。
それでも、本能が用意した狂気はやってこない──何故だ?
こんなときに、和はそんなことをぼんやりと考えた。
すると、別人のような苦々しい笑みを携えて、万里亜はくくく……と笑い出す。
「和、大丈夫?」
「……」
返事なんかできるか、くそ。
和が奥歯を噛み締めると、万里亜は足下にナイフを投げ捨てた。
「ああ、いい香り。ハーフの血は濃い上物だから、もったいない気がしないでもないんだけど」
まだ手に残る血を少しずつ嘗めとりながら、万里亜はくすくすと肩を揺らす。その仕草には照れながら甘える万里亜の面影が残っていて、和はまた軽く混乱した。
「けど、今和に動き回られちゃ困るのよね。だから今は、大人しくしてて」
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