ブラッディマリー
「澄人兄さん、遅い……」
澄人は万里亜を振り返ると、ニッと笑みを漏らす。万里亜の細い顎を、澄人のしなやかな指が持ち上げた。その雰囲気と仕草はすっかり慣れた男女のもので、和はまた眩暈を覚える。
「仕方ないだろう。わがままを言うな」
愛玩動物に語りかけるような澄人の声色に、寒気がした。
それを知ってか知らずか、澄人は万里亜の甘ったるい視線を受けながら和に視線を流し、ニヤリと笑った。まるで、自分の女であることを見せつけるかのように。
そのいやらしいやり方がどうにも気に入らず、和は舌打ちをした。ついでに、喉の奥から上がって来た苦い味の血も、床に吐き捨てる。
「何が何だか判らない、といったところか」
澄人が言い放つと、和の足元に重い金属が落ちる音がした。見ると、敬吾が構えていた筈の銃が転がっている。
和が慌てて振り返ると、敬吾が口を押さえて肩を上下させていた。
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