ブラッディマリー
「何ということはない。我々は、人間とは違うのだから。それに百合亜は、とにかく美しかった。母だと感じさせないほどに」
和の表情を見た澄人は、そんな反応は慣れている、とでも言うように苦笑した。が、澄人はその冷たい表情をわずかに曇らせる。
「しかし、純血のヴァンパイアというものは、人間と寿命が同じである中途半端な我々よりもずっと自由で、奔放だ。特定の誰かの──私のものになるなど、あり得なかった」
「お前のその個人的な感情は、黒澤とは関係ないだろうが」
「それは、君の見解だ。私の想いではない」
澄人の言動に見え隠れする、どす黒い狂気。底知れない恐怖が、そこにあった。
少しの沈黙の後、澄人はくつくつと笑い出す。
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