ブラッディマリー
 


 ついこの間まで女の香りなど、何でもよかった筈なのに、こうして今抱いているこの香りは違う、と──そう感じてしまう自分がひどくつらかった。



 腰の傷はすぐに癒えても、誰にも見えない場所に付けられた傷が、まだずくずくと血を噴き出して痛い。



 どうして、何故、なんて訊くのは野暮だ。


 知らない顔で、声色で、空気で澄人に寄り添った万里亜を自分はこの目でしっかり見たのだ。兄と妹でああいう関係でいることを、咎めだてしたところで意味がないのは判っている。ヴァンパイアだから許されることなのかどうかも、何も知らない自分には判らない。



 以前澄人は万里亜を愛している、と平然と言い放っていた。


 万里亜も同じ気持ちでいるのなら、利用されただけの自分はとんだ道化だ。



 喉の奥に苦いものが滲んだ気がして、和は奥歯を噛み締める。すると、抱いていた女が身じろぎして和を見上げる。

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