ブラッディマリー
「……大丈夫ですか?」
心配そうなその声に、和はそっけなくああ、と答えた。
意識がしっかりしたのなら、と身体を離そうとした和の腕に、女が恐る恐る縋りつく。
「……構いませんよ? 違うこともしたいなら、どうぞ」
「あんた、何を言ってるんだ」
「黒澤のおじさまから、事情は聞いています。和さんが、私のことなんて覚えていないことも」
「?」
和が眉を寄せると、女はやっぱり、と寂しそうに笑った。
「前に会ったのは私が15の時ですから、判らないのも無理はないと思いますけど」
「……あんた、誰だ」
「私……和さんに触られるの、初めてじゃないんです。だから、いいんです」
言われて、和の頭の中でぱちんと何かが弾けた。
和が覚えていないのも、無理はなかった。
──自分は敬吾に駆り出された様々な場所で、近付いてきた女を拒みもせず、片っぱしから食い物にしてきたことがあったじゃないか。
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