ブラッディマリー
口の端から覗く牙を突き立てて、ぷつりと軽く破った皮膚から滲む血を啜り、飲む。それは疑いもなく繰り返してきた、ヴァンパイアの≪食事≫だ。
頭の芯が痺れるような感覚の中、万里亜は真っ黒な雨雲に視線を彷徨わせていた。
降り注ぐ雨に濡れながら、喉に舌を這わせて抱きしめてくるのは、兄。その腕と体温はすっかり馴染んだ感触だということさえ気付かない程、当たり前に味わってきた。
その兄の腕に、たった今少しの違和感が混じるのは、何故なんだろう。
そういえば、和に初めて出会った夜も、こうして雨に濡れていた。
なんで今、そんなことを思い出すのだろうか。
雨水が目に入り、視界が滲むのを不快に思いながら、万里亜は澄人の手が自分の身体をまさぐり始めたことに反応した。
「澄人兄さん……」
「お前、黒澤和に何度抱かれた?」
「……」
「……万里亜。俺は、責めているわけじゃない。答えて」
「判らない。そんなの、覚えてない」
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