ブラッディマリー
 

 万里亜の答えに澄人は眉を寄せ、喉の奥でクッ、と笑う。



「覚えてないくらい……か」


「やだ、兄さん、こんな……」



 夜にならなければ目覚めない街の、ビルとビルの谷間。雨はその隙間すら見逃さずに、真っすぐに降り注ぐ。


 身体が冷えて行くのを感じながら、万里亜はコンクリートの壁に身体を押しつけられた。


 澄人の指は、間違いなく万里亜の弱いところを探し当ててくる。家を出る前と同じように。夏が近付いているとはいえ、雨は刺すように冷たかった。



「それで、どうだった。黒澤和は、お前に惚れたか?」


「和のあの顔、見たでしょ。あたしのことしか頭にない筈よ」



 それを聞いて、澄人は満足そうに笑った。



「これまでも、お前に堕ちない男はいなかったものな」


「……っ」



 侵入してきた指に、万里亜は身体をよじる。快感の為ではない。男を喜ばせる為に、身体に染みついた癖だった。目の前の澄人がそれに気付いているかどうかは知らないが、間違いなくこの兄とのことで覚えたことだ。

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