ブラッディマリー
疲れて寝入ってしまった女を残して和が部屋を出ると、そこに俊輔と敬吾の姿はなかった。
荒れて、血と枕の羽毛が飛び散っていた部屋はもうすっかり片付けられてはいたけれど。
場所を変えたのだろうということはすぐに判ったので、和は乱れた服装と髪をそのままに、ゆったりとした動作で敬吾の寝室を出た。
すると、そこに昼間の使用人の女が立っていた。女は、足首に包帯を巻いている。挫いた足は、大丈夫なのだろうか。
「和様、旦那様が別室でお待ちです」
「ああ、判った」
頷きながら服にこびりついた血が固まってしまっていることに気付き、和は着替えなきゃな、と苦笑した。
そういえば、俊輔が澄人に≪湊≫と呼ばれていたことを思い出した。
長い命を生きるヴァンパイアには、数多の名と姿が必要──。
父である敬吾は何の疑いもなく納得していた。おそらく、本当にそういうものなのだろう。
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