ブラッディマリー
 

 純粋な人間である君子から生まれた自分は、おそらく人とそう変わらない寿命なのだろうけど。



 でも、やはり腑に落ちないのは、これまでどうして血を吸わずに来れたのか、ということで。


 覚醒したのは、純血である俊輔に助けられたからではないと思う。自分がヴァンパイアになった直後、その血を口にした万里亜にも、それは判ったのだから。



 ……万里亜。



 当たり前に彼女のことを思い出して、もう万里亜は傍にいないということを確認してしまった。


 昨日まで当たり前に傍にいた、あのやわらかな笑顔を思い描くと、胸の中に何か苦い感情が渦巻いてくる。兄にずっと犯されていたという話も、止まったままだったこの胸を初めて揺さぶった涙も、全部嘘だったのだろうか。


 全てが嘘だったのだと思い込んで、万里亜の存在そのものを汚し、塗り潰して消してしまおうとする一方で、和の中にもうひとつどうしようもない感情が、動けずにそこにあった。

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