ブラッディマリー
 


 何もかもどうでもいいから、彼女が戻ってくればそれでいいのに、と。



 万里亜のあの謀略を、まるでただの子どもの気まぐれや悪戯のように、包み込んでしまいたくなる。


 澄人の存在など、最初からどうでもいい。ただ、自分は万里亜の口から何一つ聞いていない。



 澄人は万里亜を愛していると言った。万里亜も同じ気持ちなら、仕方ないのだと思った。



 けれど、去り際の万里亜のあの何も映していない紅い瞳が、和をひどく不安にさせる。


 あれは、男に惚れて恋に酔う女のする瞳ではない。自分は女に惚れたことなどなかったくせに、女のその瞳を見る機会だけは無駄に多かった。だからこそ、判る。


 何もかもが曖昧な中、和は記憶の中で一番鮮やかな万里亜を思い出す。



 びしょ濡れで振り返った、最初の万里亜。


 深い海の底にずっと沈められていたような、動かない心をまま映した瞳は、確かに全てに疲れ切っていた。



 あの夜の万里亜だけは、どこにも嘘がなかった。なら、それを叶えてやりたいと思うのは──男のエゴ、だろうか。




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