ブラッディマリー
 


「こちらです」



 案内されるままに通されたのは、最上階の尚美の部屋。


 和がどうかしたのか、という視線を送ると、使用人の女は眉尻を下げる。



「先程の騒ぎの中、また具合が悪くなられて……」


「さっき、薬を飲ませた筈なのに……」


「ええ、私どももそう思って安心していたんですが……」



 しばらく口ごもった後、お着替えを用意いたします、という言葉を残し、その女は階段を降りて行った。首を傾げながら、和は軽くノックをしてドアを開く。





「いや、お願いだから死なせて!」





 空気を真っ二つに裂いてしまいそうな女の叫びが飛び出してきて、和は慌てて部屋に滑り込み、ドアを閉めた。尚美はさっき充分落ち着かせた筈なのに、何が起きているのだろうか。



 部屋の奥、ベッドに横たわる尚美は力なくうなだれていた。そんな彼女を、疲れた様子の敬吾が傍らで静かに見下ろしている。



 そこに漂う空気で、和は何となく察した。


 破綻しているように見えても、この2人も紛れもなく夫婦なのだ、と。

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