ブラッディマリー
 

 敬吾はそう見栄えのいい男ではない。けれど、昔から不思議とこの男には女の影が絶えなかった。それが母を泣かせ、傷付けてきたのだろう。奪った側である尚美もまた。


 その不毛の時間の残骸がそこに全部散らばっているような気がして、和は肩をすくめた。



 尚美がさっきああして泣いていた以上、自分も当事者の一端で、無視していい状況ではないのだろうから。



「死なせて、なんて穏やかじゃないな。世の中にはもっと生きたいのに命を落としてしまう人間もいるんだ。まだ命があることに感謝しろよ」



 敬吾の後ろに黙って立っていた俊輔が、呆れたように溜め息混じりに呟いた。


 その俊輔に、あくまで勝気な尚美は枕を投げつける。が、がりがりに痩せた腕で投げたそれは、あっさり敬吾の手で阻まれ、彼らの足元に落ちた。



「……俊輔の言う通りだ。少し冷静になれ、尚美」


「嫌よ! どうしてほっといてくれなかったの! どうして助けたりしたのよ!」


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