ブラッディマリー
 

 和が驚いて尚美を見下ろすと、彼女はびくり、と身体を震わせる。


 泣き声が止まった代わりに、その痩せ細った身体ががたがたと震え出した。



「……白城澄人にしこたま血を抜かれて、死ぬところだったんだ。だからさっき医者を呼んで、輸血をした」



 敬吾の低い呟きに、和は困り果てる。


 尚美の不貞はおそらく、夫への復讐のつもりだったのだろう。が、そんなことを悟ったからって、自分に何が言えるのか。



「だって! こんなことになると思わなかったのよ! あの男の目的があたしでもあなたでもなく、和くんを殺すことだったなんて!」



 やれやれ、と俊輔はベッドの傍に据えられた椅子に腰を下ろした。



「それ以前の問題なんだがなぁ……」


「俊輔」



 にわかに苛立った様子の俊輔を窘めると、敬吾はゆっくり和と尚美に向かって足を進める。その気配に、尚美は怯えて和に縋り付いた。

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