ブラッディマリー
目の前にやって来た敬吾の瞳に促され、和は尚美を引き渡す。
「い、いやっ」
かぶりを振って拒否する尚美に構わず、和は敬吾の顔を覗き込んだ。
「あんたもさっき、体調最悪だったよな。落とすなよ」
「こんなに痩せた女ひとりくらい、抱えられんでどうする」
言う通り敬吾はしっかりと尚美を抱きかかえ、彼女をまたベッドへ戻した。尚美は一瞬諦めたように俯くと、そのままシーツの中に潜り込んでしまう。
すると、俊輔がひと際大きな溜め息をついた。
「ったく。ホント、人が良過ぎるんだよ、あんたは」
その言葉は、敬吾に向けられている。
≪人が良過ぎる≫?
敬吾とその言葉が結びつかない和は、疑いの眼で俊輔を見た。
和の仕草に苦笑すると、敬吾はベッドに腰かける。
「お前は儂を買い被りすぎだ、俊輔」
「そうは言ったってなぁ……」
「俊さん、人がいいとかありえないよ。この人に限って」
ほらな、と笑う敬吾を見ながら、ふと俊輔の瞳が陰った。
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