ブラッディマリー
 


「……けど……俺に比べたら敬吾、ホント、いい男なんだぞ、和……」


「俊輔」



 窘めるような敬吾の声に、和は俊輔を見る。


 いつもはっきりと見開かれている俊輔の切れ長の瞳が今はどこも見てはいなくて、和は首を傾げた。



「俊さん……?」


「……尚美、いい加減に機嫌を直さないか。儂が悪いのだから、認めるから……話を、させてくれ」



 俊輔に近寄ろうとした瞬間敬吾が尚美に向かって口を開いた為、和は口をつぐまざるをえなかった。


 すると、窓を打つ雨の音に紛れて、衣擦れの音。尚美がそっと顔を覗かせると、敬吾は安心したように息をついた。



「……あなたは悪くないわ。もとはと言えば、奥様のいるあなたを好きになってしまったあたしがいけないんだもの」



 言われてみればそうなのだろうけど、男と女のことでどちらが悪いということもないだろう、と和は思った。

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