ブラッディマリー
「……君子が毎日、俺にそうしてくれって、頼むんだよ。泣いて──」
過去に意識が向いているからなのだろうか、語り始めた俊輔の瞳が虚ろに彷徨う。
その言葉に、和ははっと息を飲んだ。
「母さん、が……?」
信じられない、と言いかけて、和は口をつぐんだ。
毎日、本気で呪うでもなく怨むでもなく、ただ自分の後悔を部屋中にばらまいていた母の横顔に、死を望む影を見なかったと言ってしまえば、それは嘘になってしまう。
後悔混じりに『死にたい』と吐き捨てていた母から、自分は目を背けていた。
「……嘘だろ。でも、なんで、あんたが……」
和にその心当たりがあったことにほっとしたのか、俊輔は力なく肩で笑った。
そして、聞く気になった和の手をやんわりと振りほどくと、俊輔はばつが悪い、という様子で長い前髪をかき上げる。
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