ブラッディマリー
 


「それが、百合亜が外の──ただの人間との間に子どもができたと言い出した。たった1回きり、戯れのようなことだったのに、って彼女は驚いてた。結構長い間、努力してきたこっちとしては、拍子抜けだよな。結局相性が悪いんだろうってことで、俺達は別れた。単に時期がまずかったのかもしれないから、自然に任せようか、くらいの感じでな」


「……それと母さんと何か関係があるのか?」


「……まぁ、完璧な純血ヴァンパイアにすら俺は惚れなかった、って話だ。それは百合亜も同じで。百合亜と別れてから、黒澤にいても親戚どもが何かとうるさくてな。だから俺は家を出てやった」


「しばらくして、空いた家長の座に据えられたのが、この儂だ」



 不安げな尚美の髪を撫でてやりながら、敬吾が苦笑した。



「……そうなのか? 俊さんの話し方で、もっと前のことかと……」


「時間の感覚がもうないんだよ、俺にはね」


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