ブラッディマリー
 

 シュ、と音がして和が振り返ると、敬吾が煙草に火を点けていた。ふわり、と漂う煙の香りは、昔のものより幾分軽く感じた。


 敬吾のことはもともと好きではなかったが、こう明らかに老いを感じると、自分の尖った感情をそのままぶつけるのは何だか可哀相な気がしてくる。



「……当然のように、その時期が来るまでは自分はひとりきりだ、と思ってたんだよ。その方が、楽だったしな。それが、25年前に突然再会したんだよ。そこの、敬吾と」


「え?」



「俺がこの家を出た時、敬吾はまだ子どもだったんだけど。それでも俺の顔を覚えていたらしくて、血相変えて走って来たんだよ。新人議員サマが雨の中傘も差さずに、チンピラみたいな格好の俺を、追いかけてね」



「……親父が?」


「……人間離れした容姿だと、今自分でも言ったじゃないか。そんな顔、子ども心に忘れるわけがないだろう」


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