ブラッディマリー
敬吾はそれだけ言うと、もう口は挟むまい、という様子で紫煙を燻らせる。
この、いかにも悪徳政治家という感じで腰の重そうな男が、俊輔を追いかけた?
どうにも繋がらない思考に、和は口唇を噛み締める。俊輔は続けた。
「敬吾は敬吾で、このまま自分が黒澤の血を継いでいいのかどうか、悩んでた。そして俺は、初めて君子と出会ったんだ──もう、全てを承知していた、彼女とな」
俊輔はまだ躊躇うように視線を彷徨わせると、今度は床の一点をひたすら見つめる。それはまるで、他人と向き合うことがまだ苦手な思春期の少年の仕草のようだった。
やがて、俊輔は小さく深呼吸をすると、少し震える声を放つ。
「敬吾に頼まれたことは、俺にとってはどうでもいいことだった。いや、むしろそういう理由があることがありがたかった。だから俺は君子にたった一つ、嘘を吐いたんだ」
「……何だよ、それ……」
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