ブラッディマリー
「……気付かなかった。俺じゃない誰かがあの家に出入りしてたなんて、知らなかった……」
「まぁ、腐っても吸血鬼……鬼だからな。気配や痕跡を隠すことくらいは、簡単だった。それにお前は、まだただの人間だったしな」
「……」
「それから……君子がいつから気付いてたのか判らない。けど、俺が自分を好きだということを、彼女は知ってた。生きていることに疲れたから、殺して欲しいとせがまれるようになったんだ。他の誰でもない、和の父親である俺に、と」
俊輔は自分の手のひらに目を落とす。
「君子が日々弱り果てていくのを、見てられなかった。いっそ血を分け与えて、仲間にしてやったら──とも考えた。……けど、俺は人である君子に惹かれたんだ。それだけはどうしても、できなかった。死なせろと迫る君子と、ある意味戦い通しの毎日だったよ」
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