ブラッディマリー
ジジ……と、敬吾が煙草の火種を押し消す音が静かな部屋に響く。時々、じっと聞き入っている尚美が息を飲む音も聴こえた。けれど、そのどれも俊輔の言葉をかき消すことはない。
胸に何かがつかえているようで、呼吸がしにくい。
和はその度無意識に自分の胸元を軽くかきむしる。それでこの苦しさが和らぐことはないと判っていたけれど、どうしてもそうせざるを得なかった。
そんな状況の中、俊輔は息を吐くように最後の言葉を紡ぎ出す。
「最後は、俺が負けた。私を愛しているなら、和を──子どもを作ったことを少しも恥じず、後悔していないのなら、どうか楽にして下さい、と。耐えるだけの人生にはもう疲れたから、一度くらい男の人に私のわがままを聞いてほしいと。俺にしかできないのだと、彼女はそう言ったんだ」
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