ブラッディマリー
 

 優しいと言ったって、うまく振る舞っても澄人の機嫌ひとつでいたぶられることは変わらない。手足を縛られて、少しずつ血を抜かれて、その間何度も犯される。万里亜の限界ぎりぎりまで、そういう仕置きを澄人は幾度となく繰り返してきた。



 兄さんの一番の保存食は、このあたし。



 今さらながらそんなことに気が付いて、心臓が痛くなった。その痛みはやがて熱を帯び、吐き気のように胸から喉へとせり上がる。



 ──吐く。





「……ああっ、うわあああああ、あっ、あああ……!!」





 思った瞬間、口から飛び出したのは今まで自分でも聞いたことのないような叫び。


 瞳からとめどなく熱い雫が流れ落ちた。けれど、冷たい雨と混ざってすぐにそれが何だったのかさえ判らなくなる。



「ああああああっ!!」



 電柱にしがみついて、万里亜はただひたすら声を上げて泣いた。

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