ブラッディマリー
けれど母とて、いくら子を成した間柄とはいえ、何の感情もない男を相手にそんなことを懇願するとは思えなかったのだ。
──自分が、そう思いたがっているだけなのだとしても。
和は俊輔の顔をぼんやりと眺めながら、親と子で女に『殺せ』と迫られたことへの因果を思った。
俊輔は母を殺してしまったが、果たして自分はどうするのだろう。
澄人と2人で消えてしまった万里亜。彼女は、白城の家に戻ったのだろうか。
そして、これまでと同じように、どこか壊れたところのある印象を拭えないあの兄──澄人の腕に、抱かれて過ごすのだろうか。
熱くて苦いものが、喉にせり上がって来る。それが吐き気だと気付いた和は、ぴりり……と痛む喉を押さえ咳払いをすると、それを飲み下した。
自分の幼稚な執着が、万里亜の裏切りには何か理由があった筈だ、とさっきから彼女との記憶の中から必死に違和感を探し回っている。
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