ブラッディマリー
7

崩落の狂気

 


 あれは、あたしがまだ5歳くらいのときのことだっただろうか。



 いつも一緒にいる、深緑のリボンをつけたテディベアのカミーリアを抱いて、あたしは暗い廊下をゆっくりと歩いていた。カミーリアは、お母さんがつけてくれた名前。椿の花のことだ、ってお母さんは笑って言ってた。


 薔薇に触れただけで枯らしてしまう私にとって、裏庭に咲く胡蝶侘助は癒しだから、万里亜の大切なその子の名前も椿の名前にしようね、って。


 カミーリアは、外に出られないあたしの友達。だから、いつも離れないようにぎゅっと強く抱いていた。



 真夜中に目が覚めることなんて一度もなかったから、廊下を歩きながらもその静けさが怖くて怖くて堪らなかった。


 本当は澄人兄さんの部屋の方が近かった。だけど、歳の離れた兄さんは何を考えているのか判らなくて、ちょっと怖い。だからあたしは、頑張ってお母さんの部屋を目指したの。

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