ブラッディマリー
 


 そうして呼ばれるより先に、万里亜も判っていた。兄ならこんなことをしない、という消去法などではなく、和なのだと。



 この雨の中を走って来たのだろうか、背中越しの和もずぶ濡れだということが万里亜にも伝わる。けれども、ちっとも冷えていないその身体に、万里亜の胸が高鳴る。





 ばかだ。馬鹿だ、馬鹿だ、馬鹿だ、馬鹿だ、馬鹿だ。





 このまま、和の怒りに任せて殺されてしまっても仕方がない筈の、この状況を心の底から悦んでいる自分を、万里亜は頭の中でしこたま蔑み、罵った。


 けれど、自分で自分を責めることさえ、どこか幸せなのだった。



 和といた毎日は、偽りを演じながらも万里亜の中に自分というものが確かに在った。



 恐怖に心を揺さぶられることもなく、絶望に思考を打ち砕かれることもなく。









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