ブラッディマリー

禁じられた遊戯

 


 甘く囁いて、優しく抱きよせて。


 そこにないものがいかにもあるような『ふり』をしてやるのは簡単というか、そういう時の振る舞い方は、実際女を前にすると呼吸をするように自然に思い付いた。


 尚美さんなんかは、『あなたは天然で女をたらしこむ才能があるのよね』なんてよく貶めてくれたけど。


 正直言って、そういう細やかな仕草のうち、何一つ俺自身の気持ちなんて入ってなかった。



 だけど。



 これ以上ない程甘やかして、ある意味でこれ以上ない程責めているつもりでいるのに、その全てが今までと何ら変わらないものでしかない気がして、和はもどかしさに息を詰めた。


 雨の夜に、2人してびしょ濡れで、マンションに辿りついて、がばがばで気持ち悪い靴を必死に脱いで、それでも口唇を、絡み合った舌を離せない。


 せっかく初めて抱き合った夜と同じ舞台が整っているのに、身体の方が付いてこない現実に、和は切なくなる。

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