ブラッディマリー
一瞬動きを止めた和に気付き、熱く濡れた万里亜の瞳が、彼の表情をとらえる。確かめずとも和の視線で悟ったらしい万里亜は、小さく首を傾げると、やがてクスリと不敵に笑った。
和のよく知っている万里亜なら、縮こまってその身体に付けられた内出血の痣を咄嗟に隠す筈で。けれども和の目の前にいる女は、紅く輝る瞳の奥に蠢くどうしようもなく昏い獣を、隠すことなくちらつかせた。
──これが嫌なら、今すぐあたしなんて追い出してしまえばいいじゃない。
無言の瞳に、そう突き放された気がした。
これは、万里亜からの挑戦だった。真意を見抜けずに過ごしたとはいえ、万里亜の身体のことならとっくに知り尽くしているという自負のある和は、彼女のはだけたワンピースの肩を掴むと、そのままバスルームへ向かう。
とりあえず突き放すことも、突き放されることもなかった万里亜は、されるがまま泥だらけの足元を気にも留めず、和に続いた。
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