ブラッディマリー
さっき和に切られた傷は、とっくに塞がっている。
万里亜はすっかり治ってしまった傷の痕をそっと撫でながら、溜め息をついた。
そんな自分の背中を、煙草を吸いながら和が見つめていることに、万里亜は気付いていた。
このまま、何もなかった頃に戻れたら、どれだけいいだろう。
万里亜は和を振り返ると、その腕に身体を寄せる。華奢に見えるくせにしっかりとした和の腕は万里亜のその仕草を迎え入れ、腕枕をしてくれた。
身体は疲れ切っているのに、ちっとも眠りたいとは思わなかった。
窓の外は、まだ闇に包まれて、止む気配のない雨の音がしている。楽しい時間はすぐに過ぎ去ってしまうとはいうけれど、夜が明けるにはまだまだ早い。
万里亜はぎゅっと目を瞑ると、和の腕の中で身体を丸めた。
和に全てを許されたわけではないことは、何となく判っている。だけど、それでもこうして抱いてくれた彼に、まだ堪らなく執着していたかった。
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