ブラッディマリー
 


 万里亜は、その感情を何と呼ぶのか、判らなかった。


 いや、判ってはいたけれど、いざ口に出そうとすると澄人の囁きが頭をよぎる。


 口に出せば、自分の伝えたいこととはどうにも程遠い言葉になる気がして、恐ろしかった。



 一番近い言葉が『欲しい』だなんて、どれだけ浅ましいのだろう。


 その『欲しい』は自分の全てをも『奪って欲しい』ということとほとんど同じなのに。



 けれど万里亜は、その『奪って欲しい』をどうしても言えなかった。


 もうこのままではいられないことは、判っている。


 兄の澄人は、必ず和を殺しにやって来るだろう。



 その時、この状況を招いたあたしは何をするべきだろうか──。









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