ブラッディマリー
 


 視線の先に、嫉妬に顔を歪ませる澄人兄さんがいた。


 兄さんがお母さんの胸に何か棒のようなものを突き立てているその光景を何とも思わなかったのは、ヴァンパイアが自分の性に目覚めた時特有の精神状態にあったのだと思う。



 夢を見ているかのような、アルコールに酔ったかのような、思考回路の痺れ。


 澄人兄さんはお母さんの身体から溢れる血を何度もすくい取り、あたしの口唇に塗り付ける。


 呻き声すら出すことの出来ないお母さんの瞳が、涙に濡れてあたしを見つめていたけれど、あたしは与えられるそれを、夢中で飲み下していた。



 やがてお母さんの身体は、灰か砂のように崩れ去ってしまった。何が起きたのかを理解して壊れたあたしを、澄人兄さんが支配するようになった。


 お母さんを殺してしまおうと思ったくせに、澄人兄さんがどうしてあたしを助けたのかは、今になってもよく判らなかった。




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