ブラッディマリー
 


 窓を開けた万里亜に、和の顔色が変わった。


 その顔を見て、万里亜は優しく微笑む。


 そうして、その細い身体を迷うことなく真っ暗な夜に投じた。





「万里亜──っ!!」





 和が伸ばした手は、あと少しというところで届かなかった。空を切った手に、吹き込む雨が打ちつけられる。



 そのまま和が慌てて窓から身を乗り出すと、遙か下にふたつの人影があった。


 万里亜をその腕に横抱きにしていたのは、やはり澄人で。



 和はそれを見た途端、やはり万里亜のことを何も判っていなかった自分の頭を殴り付けたい衝動に駆られた。


 万里亜が本当に欲しているのは自分なのだという慢心が、この僅かな隙に対応できなかったのだ。



 ──助かりたい、でもそれが出来ない、揺れる万里亜の想いを判っていたのに、甘く見ていた。



 澄人にゆっくりと下ろされながら、万里亜は切なげに和を見上げる。隣に佇む澄人は、恐ろしい程静かな様子で万里亜を見下ろしていた。

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