ブラッディマリー
 

 すると、じっと動かずにいた万里亜が、震える手を伸ばし和の足を掴んだ。



「!」


「……和……泣かないで」


「!?」



 万里亜に言われ驚いて瞬きをすると、雨ではない熱い雫が自分の瞳から落ちた。


 澄人はそれを黙って見ている。


 和はようやく、ふらふらと万里亜の前にしゃがみ込んだ。



「万里亜……」


「和は、悪くない……和のお母さんのことも、あの尚美さんて人のことも、全部……全部」


「……っ」



 にこり、と笑った万里亜は、既に痛みすら感じていないようだった。それがどういう意味か判らないわけではなかった。たまらず和は万里亜を抱き起こした。



 すると、澄人は黙って踵を返す。


 けれどそれを咎めることも追うことも、今の和には思い付かなかった。


 和は腕に抱きしめた万里亜を見下ろすと、あふれる涙を止めることも出来ずにただ震える。

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