ブラッディマリー
「……お前はヴァンパイアのくせに、本当に人間くさい女だな」
クッ、と喉の奥で笑うと、澄人は瞳の奥の狂気をそのままに、和を見つめる。
その瞳に見覚えがあって、和は背中にゾクンと寒いものが走った。
「──万里亜が手に入らなくて残念だったな」
「……何故、今になって万里亜をこんな目に遭わせた」
胸の奥の焦げるような怒りと、涙の余韻で和の声は震える。
和の感情を抑えようとするように、万里亜は血まみれになった手で、彼のシャツの袖を掴んだ。
けれど、力の入らない指先では満足にそれが出来ず、サテンの生地で滑り落ちる。
「散々苦しめて、傷め付けて──そんなことをするくらいなら、どうして……!」
「百合亜と一緒に殺さなかったのか、か?」
澄人のはだけたワイシャツから覗く鎖骨が、雨に濡れてきらりと光る。遠くの街灯のせいだ。澄人は少し面倒そうに髪をかき上げると、真っすぐに和を見る。
和は対峙する紅い瞳に潜む、底知れぬ魔物にこれ以上何も奪わせまいと、強く見つめ返した。
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