ブラッディマリー
 


「……薬漬けの男を金で雇って……百合亜の乗る車に突っ込ませた。そこで3人共死んで、終わる筈だった。が、即死だったのは百合亜の男だけで──百合亜と万里亜は、辛うじて生きていた。俺は残った2人も殺してしまうつもりで、近付いたんだ。……俺は、純血のヴァンパイアをなめてたよ。百合亜に噛まれて、一瞬動けなくなった」


「……兄さん……?」



 浅い呼吸の中、万里亜が眉をひそめる。どうやら万里亜も初めて聞く話らしかった。



「この男がいなければ生きていけないから、殺してくれと。そして万里亜だけは助けてくれと言われて、どうしてだか逆らえなかった……」



 息を飲んだのは、和だった。



 ぞっとした。


 君子といい、万里亜といい、尚美といい。
 どうして自分が見て来た女はこう、ことごとく死にたがりなのだろうか、

と。



 すると和の腕の中の万里亜が、クスクスと笑い出した。その餓えたままの瞳から、涙がこぼれ落ちる。

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