ブラッディマリー
 

 それが嗜虐という名の欲望なら、自分は万里亜に執着してしまう──そんな予感と共に、ぞくりと震えながら。





「そんなことを言うもんじゃないよ、万里亜」





 雨音を押しのけて、真っすぐに通る声が響いた。


 和の方を見たまま、万里亜はびくりと身体を震わせる。それが怯えだとすぐに判った和は、声の主から万里亜を庇うように立った。それは殆ど無意識で。


 さっきの肌が粟立つような感覚がまだ残っている証でもあった。



 見ると、街灯の真下に黒い傘を持った男が佇んでいる。光沢のあるダークグレーのスーツは、長身によく映えていた。傘の下から覗く口元に僅かな微笑みを携えたその男に、和は緊張をおぼえる。



 そんな和の背に、万里亜の縋るような指先が触れた。

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