ブラッディマリー
溜め息をつくと、白い息が目の前に広がって、和はまた自分がぼうっとしていたことに気付いた。
目の前にあるのはさっきと同じ、薄暗い交差点。和は信号待ちをしながら、一瞬白昼夢を見たようだった。
我を失っていたのは一瞬のことだけれど、こうして現実に戻って来る度に、何か取り返しのつかないことをしてしまったような気持ちになる。
それでもしっかり握っていた傘は、冬の雨から和を守っていた。
日本の冬というのは、どうにも薄暗い気がして仕方がなかった。
よっぽどの快晴でなければ、空も街の景色も灰色だ。
気落ちしても仕方がないこの気候を忌々しく思って、和は同時に感謝もした。季節のせいに出来るうちは、少し楽だったからだ。
ようやく信号が青に変わり、急ぐ人の足並みを見つめながら、和はもうその景色に溶け込めないことを思い知らされる。
ゆっくりと足を踏み出しながら、和は漆黒の髪を手で軽く梳いた。
万里亜と澄人が死んだあの夜から、見事な程白かった和の髪は、昔のように真っ黒に戻っていた。
.