ブラッディマリー
ただ歩いて、ひたすら歩いて、和は懐かしい景色に心がほどけて行くのを感じていた。
ここは昔、母の為に通い詰めた道程だ。君子が寂しがらないように、和は出来る限り彼女の実家まで通い詰めた。今思えば、あの年頃にしてはずいぶん親孝行に励んだものだと思う。ほぼ毎日母のもとへ通いながらも、しっかり尚美以外の女と遊んでもいたのだから、大したものだ。
そうしなければバランスがうまく取れなかった、とも思うけれど。
住宅街の外れのその景色は、昔と同じところもあったし、ところどころ様変わりしてもいた。
こんな小さな街でも、数年経てば様子が変わるものなのだな、と思いながら、和は傘の下から空を覗く。
雨はまだ止みそうにないが、ところどころ雲の切れ間から陽の光が射し込んでいる。
そうして歩くうち、和はようやくその場所を見つけ、足を止めた。
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