ブラッディマリー
 


「……知り合い?」



 そう訊ねると、万里亜は小さくコクン……と頷く。



「……兄なの」



 万里亜の掠れた声。


 自分よりもずっと緊張しているのは万里亜なのだと気付き、和に少しの余裕が生まれた。



「……どなたかは存じ上げませんが、妹を迎えに来ました。ご迷惑をおかけしましたね」



 浅い水溜まりを気にすることなく、男は足を進める。その水音に、万里亜は身体を震わせた。



「お礼は、後程伺います。さあ……万里亜」


「嫌っ!」



 男の傘が僅かに動いた。



 そこから覗いた瞳は、優しげな声とは裏腹に鋭く冷たいもので、しなやかなシルエットで残酷に獲物を狙う、猫科の獣のようだった。


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