ブラッディマリー
「親父、新しい女作ったの、知ってる?」
わざわざ尚美がシャワーを浴びた後を見計らって、和はそう言い放った。素顔で振り返った尚美は幼く見えて、和はにやりと口の端に笑みを浮かべる。
「……そんな筈ないでしょう。新婚をからかわないで」
「最近、減ったろ?」
和の言葉に、尚美の顔がさっと青くなる。
それを隠せないのは、化粧という仮面が剥がれたから……それだけでは、決してない。
「馬鹿言ってないで、早く寝なさい。学校あるでしょ」
「明日は土曜日だよ、尚美サン」
今日が金曜の夜であることは、尚美が嫌という程よく判っている筈だった。
金曜の夜は、尚美がただの愛人だった頃──和の母親に同じ想いを味わわせて来た夜。
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