ブラッディマリー
 


「知ってる? 奪ったものはまた奪られるんだってさ。巡り巡ってこの世は成り立ってる、って話」



 己の父親とその妻を傷つける。それを目的とした瞬間から、和はとんでもないスピードで老成していった。それは、尚美が和を脅威に感じる理由でもある。



 大人の理屈を、充分に携えてやって来る和。


 冷静さを欠いた尚美は、それでも成熟していない和の身体を見て、震えながら溜め息をついた。



「……あなたがあたしを嫌ってるのは、判ってる。だけどお願い、今夜はそれ以上虐めないで」


「嫌ってないし、別に虐めてないよ」



 和に背を向け、鏡台に座り意地になったように髪をとかし始めた尚美。その仕種が、ちっとも集中出来ていない。

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