ブラッディマリー
 

 和はそれを見て小さく笑うと、尚美の後ろに立った。そして細い肩にぽん……と手を置くと、尚美はびくりと身体を揺らす。


 その耳元で、和は囁くように言った。



「……親父に一泡吹かせる時の為の材料、持ってたくない?」



 尚美の腰が、ぞくりと震えたのが判る。


 女など、まだ知らない。こんなやり方を、誰に教えて貰ったわけではない。和は自分の意外な天賦の才に、軽い驚きと興奮を感じていた。



 考えるより先に、和は指先で尚美の髪を少し梳く。また、女の身体がふるりと揺れた。面白い程のその反応に、和はやすやすと言葉を紡ぎ出す。



「……義理の息子って、赤の他人なんだよ? 義母さん」



 女がふっと溜息をついたのが判った。和は長い髪に絡んだ指先をそっと抜き取ると、尚美から離れる。

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