ブラッディマリー
 


「まあ、何か混ぜたドリンクをカクテルって呼ぶもんだからな」



 客の注文が落ち着いた頃、カウンターの隅でミートソーススパゲティを食べる万里亜の前に立ち、和は煙草に火を点ける。



「そういうもんなの?」


「……って、俊さんに教わっただけだけど」



 ふうん……とスパゲティをフォークに絡ませながら、万里亜は食べることに集中し始めた。


 それを見ながら、和はここで働き始めた頃のことを思い出す。



 やっとカクテルのレシピを一通り覚えた頃、20代半ばくらいのOL風の女におかしな絡まれ方をされた。



『カルアミルク、アルコール抜きで』



 今思えば下らない冗談の王道なのだけれど、ものすごく焦ったことを覚えている。


 俊輔が肩を震わせながらコーヒー牛乳をその女に出した時、からかわれていたのだとようやく気付いた。今思うと恥ずかしい話だ。

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