ブラッディマリー
 

 和の視線がなくなったことに安堵したのか、万里亜は小走りで彼の後ろを素早く通り抜け、奥のトイレに駆け込んだ。


 バタン、といつもの万里亜からは考えられない程大きな音を立ててドアが閉められる。それに少し驚いて、和はテーブルを拭く手を止めた。



 万里亜の様子を窺うつもりはないけれど、開いたままのロッカーが気になり、和はカウンターに雑巾を放って、そちらへ足を進める。


 カウンターの中、出入口の邪魔にならないよう隅に置かれたロッカー。万里亜は中が見えないよう、ホームセンターのビニール袋の口を畳んでいた。



 和は軽く溜め息をついて首を傾げると、ロッカーにかけている自分のシルクの柄シャツを取り出す。


 Tシャツを脱いでそれに腕を通すと、入口のドアが揺れてチリン、と鳴った。



「おはよ」



 入って来たのは、リキュールの瓶を裸で持った俊輔。

.
< 96 / 381 >

この作品をシェア

pagetop