ブラッディマリー
 

 すると中からもドアが押し開かれ、力を入れて引こうとした和は拍子抜けする。その姿にほっとした。


 が、すぐに身体が強張る。



 ドアに張り付くようにしている万里亜は、自分の履いているミュールのヒール部分を全く無視し、爪先だけで立っていた。



 全く体重を感じさせないその佇まいに、和は目の前にいるのは人間とは違うものだと瞬時に悟る。


 さっき本能的に感じた寒いものは恐怖だったのか、と気付いた瞬間、俯いていた万里亜がブリキの玩具のように顔を上げた。



「──っ!?」



 和を見上げるその瞳が、血の色に妖しく輝く。


 目が合って、に……っと万里亜が口角を上げ笑うと、そこから尖った牙が覗いた。



 ──吸血鬼……!



 万里亜はそのまま爪先でタイルを蹴り上げると、和に向かって飛びかかった。


.
< 99 / 381 >

この作品をシェア

pagetop