ブラッディマリー
すると中からもドアが押し開かれ、力を入れて引こうとした和は拍子抜けする。その姿にほっとした。
が、すぐに身体が強張る。
ドアに張り付くようにしている万里亜は、自分の履いているミュールのヒール部分を全く無視し、爪先だけで立っていた。
全く体重を感じさせないその佇まいに、和は目の前にいるのは人間とは違うものだと瞬時に悟る。
さっき本能的に感じた寒いものは恐怖だったのか、と気付いた瞬間、俯いていた万里亜がブリキの玩具のように顔を上げた。
「──っ!?」
和を見上げるその瞳が、血の色に妖しく輝く。
目が合って、に……っと万里亜が口角を上げ笑うと、そこから尖った牙が覗いた。
──吸血鬼……!
万里亜はそのまま爪先でタイルを蹴り上げると、和に向かって飛びかかった。
.